紀元前5世紀に、知が爆発したらしい
第3章に入ろう。
テーマはいよいよ、「哲学の誕生」だ。
哲学は、古代ギリシャを中心に派生していったものだけではない。
中国やインドでも、哲学は生まれた。
儒教や仏教のことだ。
儒教や仏教は、日本に根付いている価値観でもあるから、あまり「哲学」という捉えられ方をしていないのかもしれない。
だから「哲学」というとき、どうしても西洋哲学を想起しがちなのだ。
しかし、こうした東洋哲学も現代まで存在感を放ってきたことを忘れちゃいけない。
現代にまで伝わる哲学は、BC5世紀前後に、同時多発的に起こったものが多いという。
ギリシャではソクラテス、インドではブッダ、中国では孔子や老子。実は彼らは、ほとんど同時代を生きていた人物だったのだ。
これは驚いた。
宗教(特にセム的一神教)は、ユダヤ→キリスト→イスラムと、ある程度時間をおいて発生してきたのに、哲学はほぼ同時だというのだ。
ここで思ったことがある。
よく、時代の変革期には、英雄が同時多発的に生まれると言われる。
日本で言う明治維新の時期の英傑たちのように、大人物が立て続けに現れることがあるのだ。そして彼らの存在が、時代を大きく前進させていくことは間違いないだろう。
それと似たようなことが、BC5世紀前後に世界で起こっていたのか、と。
タイムマシンに乗って見に行ってみたい気持ちになる。
BC5世紀前後に起きた、知の爆発。(この言葉、パワーワード感があって好きだ)
この時代を「枢軸の時代」と呼ぶ。
知の爆発には、鉄器の発明と地球温暖化が影響しているという。
この2つにより、農作物などの生産性が爆上がりした。
そのおかげで、時間や食物に裕福な層が生まれ、彼らは知識人や芸術家となった。
それが、哲学的思考の拡大に寄与した。
「世界は何でできているのか?」
「人間はどこからきてどこに向かうのか?」
この問いをじっくり考える時間ができたのだ。
ギリシャ
それが顕著だったのがギリシャだ。
ギリシャではBC5世紀より少し前から哲学的思考の広がりを見せていた。
始まりは、「神話」である。
ギリシャ神話は『イリアス』『オデュッセイア』(ホメロス著)、『神統記』(ヘシオドス著)において体系的にまとめられた。これがBC9~7世紀ごろの話。
そして、BC7世紀以降、自然科学者たちによる「”アルケー”の追求」が始まった。
アルケーってなんやねん→「万物の根源となるもの」とのことです、はい。
いろんな人が「これがアルケーだ」と語っていたようだ。箇条書きにしておこう。
- タレス(BC7~6世紀):水がアルケーだ
- ヘラクレイトス(BC6~5世紀):万物は流転する
- エンペドクレス(BC5世紀):アルケーには4元素(火・空気・水・土)がある
- デモクリトス(BC5~4世紀):アトム(原子)こそがアルケーだ
- ピュタゴラス(BC6~5世紀):アルケーは、数でできている
- パルメニデス(BC6~5世紀):世界には始めも終わりもない(一元論)
みんないろいろ言ってんなー…
だが、科学の発達していない時代にこれらを見い出していたのだからすごい。
このうち上の4人は自然科学者と呼ばれている人物。
そして下の2人の思想はちょっと異色だ。
「x²+y²=z²」の定理で有名なピュタゴラスは、ピュタゴラス教団の教祖として、宗教的な立場もとっていた。
学問的立場と宗教的立場の両面から世界を解明しようとしていたのだという。
その意味で、ピュタゴラスは哲学と宗教が似ていることを示す好例となっている。
パルメニデスは、「あるは、ある。ないは、ない。」という名言を残した。
何のこっちゃ・・・
理性でとらえる不生不滅の有るべき世界と、感覚でとらえる生々流転する現実世界の二重構造を説いている。
そして、世界には始めも終わりもないという一元論的存在にたどり着いた。
この辺、まだちょっとよくわからないが、先に進みたい。
この時期にソクラテスをはじめとする哲学者も出てきているのだが、それは第4章で詳しく解説する。
インド
そのころインドでは、ブッダの誕生である。仏教の開祖だ。
仏教の他にも、インドには「六師外道」と呼ばれる6人の思想家がいた。
ただ、「外道」と言われてしまっている通り、インドでは仏教が圧倒的に影響力を持っていて、6人の思想は「仏教以外の奴ら」としてひとくくりにされているのが現状だ。
中国
中国では、孔子と老子を代表とするさまざまな思想家が生まれている。(老子が存在したのかという議論はさておき)
詳しい解説は5章以降となるが、中でも中国ならではであると著者が強調するのが陰陽五行説だ。
陰(地・月)と陽(天・日)と、5元素(木・火・土・金・水)をかけ合わせることで宇宙が生成されているという説だ。
のちに出てくる「陰陽師」というのは占い師の一種だが、この説自体は本質的なことを言っている気もする。
エンペドクレスのアルケー論とも近いものがある。
このように、各地域で似たような哲学的思考が起こり、知が爆発したのがBC5世紀前後なのだ。
現代のように、ネットで世界中がつながっている世の中ではないのに、違う場所から、同じような考え方が、同じ時期に生まれてくるというのは、驚嘆に値する。
人間の進化の本質が、そこにあるのかもしれない。
ちょっと長くなってしまったが、面白くなってきたのは確かだ。
哲学史。どこまで追いかけられるだろうか。
第4章はギリシャの哲学者たちを詳しく見ていく章となる。
ではまた次回。
※参考テキスト